2010年7月15日木曜日

とある作家の完全書法<エクリチュール>

イタロ・カルヴィーノ「むずかしい愛」(岩波文庫)を読み終わったぜ。



ある北方の冒険



この12編からなる短編集はけっしてSFというわけではないのであるが、サイエンスを人文科学にまで広げてよいものであるならば、まさしく科学的な考察を持ったフィクションということでSFの範疇で読むことは読者たる自分の勝手なのであって、イタロ・カルヴィーノとは現代小説を描きつつもいや精緻に描写してあればこそ、逆説的に幻想感がいや増す特異な作家であるということもできるだろう。

「ある~の冒険」と定型された主人公は、兵士、悪党、海水浴客、会社員、写真家、旅行家、読者、近視男、妻、夫婦、詩人、スキーヤーとてんでばらばらであり、それぞれの日常のありふれた情景を綴っているにすぎない。
ちょっとしたなにげない出来事なのだが、冒険といえるだけの非日常性はなく、ただ彼らにとっては淡々と進んでいく日常の断片が切り取られているだけの短編である。
しかしその日常の断章こそが“冒険”なのであり、切り取られているからこその完全性を有する物語足りえるのだ。
愛の不在を書くことで愛を描き、小説としての物語形式を逸脱しようと試みることで完全なる小説の可能性を追求した作家イタロ・カルヴィーノ、その存在こそが“ある作家の冒険”であり一言も語られていないこの物語こそがあたかも13番目の物語としてたちあらわれてくるのだ。

カルヴィーノ作品にはまだまだ未読のものがあるので、次の本が楽しみです。

「百科事典であり、図書館であるような生に拮抗する一冊の書物」を夢見、一作ごとに異なる語り口で数々のエクリチュールを駆使して物語を描いた作家。
様々な<世界>をめぐり、その瞳はなにを視る。